誤解だらけの生前贈与【東洋経済】

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更新日時:2013年02月08日はてなに追加MyYahoo!に追加del.icio.usに追加

誤解だらけの生前贈与【東洋経済】

カテゴリー:遺言・相続ニュース

税理士の福田真弓と申します。このたび『必ずもめる相続税の話』(小社刊)を出版しました。以前に書いた『必ずもめる相続の話』の姉妹本です。最新刊は、タイトルからすると「相続税の本」のようですが、実は少し違います。

遺言書作成や節税対策を行う前に、まず基本を知ろう

国税庁によれば、相続税の申告財産のなかで一番割合が多いのは「土地」であり、申告後の税務調査で申告もれを最も多く指摘されているのは、「現金・預貯金」です。

今後、相続税の増税が懸念されるなか、遺言書の作成や相続税の節税対策を行うより前に、まずはこの「現金・預貯金」と「土地」について、知っておくべきこと、やるべきことがいろいろあります。それらの重要なポイントをしっかりと押さえていただくために、本書を執筆しました。

このコーナーでは、今回から三回連続で、本書の要点を取り上げます。



  第1回は、そのうちの「お金」についてです。



相続税の増税に備えて、「贈与」を行う方が増えています。生前に家族に預貯金などの贈与を行い、相続税のかかる財産を減らすのが、いちばん確実で効果的な相続税対策だからです。

とはいえ、税理士である私が見る限り、「あげたつもり」なのに「あげたことになっていない」ということが多くあります。その場合、税務署は生前に「贈与があった」とは認めずに、亡くなった人の財産であるとして、相続税を課す可能性が高いのです。これでは何の相続税対策にもなりません。

●あげたつもりのお金が・・・誤解だらけの贈与の知識

法律や税金の世界では、「贈与の事実が本当にあったかどうか」は

 1)「あげました」「もらいました」という両者の意思があるか

 2)もらったという「実態」はあるか

この2つの点から判断します。

具体的には「(1)贈与契約書を作成し、二人が署名・捺印した上で」

「(2)もらった人に通帳や印鑑、カードを渡すこと、または、あげる人がもらう人の預金口座にお金を振り込み、もらった人が自由に使えていること」

などがポイントです。

これがきちんとできていないから問題が生じます。「預金の名義」や「贈与」について、次のような勘違いや思い込みをしていませんか。それが「したつもり贈与」の落とし穴なのです。いくつかあげてみましょう。

●よくある「預金の名義」や「贈与」に関する勘違い

 1)亡くなった人「名義」ではない預金には、相続税はかからない

亡くなった人の「稼ぎ」がもとになっている預金なら、名義が誰かに関係なく、相続税はかかります。

預金口座の「名義」という形式的なことではなく、「誰が稼いできたお金なのか」「実際に、通帳や印鑑・カードなどを持ち、預金を自由に出し入れしたり、使ったりしていたのは誰か」などの具体的な事実から、その預金が誰のものかを判断します。

 2)家族の預金口座にお金を移したら、贈与税がかかる

たとえば父の預金口座から、息子の預金口座にお金を振り込んだとしても、父が息子に借りていたお金を返したり、息子にお金を貸したりするために、振り込んだのかもしれません。お金が移った原因は贈与ではありません。

また、父が一人暮らしをしている大学生の息子へ、年間110万円を超えてお金を振り込んでも、それが生活費の仕送りや学費なら、贈与ですが贈与税はかかりません。父には、息子を扶養する義務があるからです。

「お金が移った=贈与」ではないし、「贈与=贈与税」ではありません。

●夫婦の間でも、贈与は贈与

3)贈与税がかからないように、年間110万円以下の範囲内で、家族の口座にお金を移している

預金の持ち主は「名義」で決まるわけではなく、また、家族名義の預金口座にお金を移したとしても、それが贈与とは限りません。

お金が移っただけでは贈与があったことにならないため、金額が110万円以下でも110万円を超えていても、そのこと自体には、何の意味もありません。

4)贈与の証拠を残すため、あえて111万円を振り込んで、税務署に贈与税の申告書を提出し、贈与税を1000円納めている

「贈与税の申告書を税務署に提出し、贈与税を納めていれば、それが贈与の証拠になる」というのは、よくある大きな誤解です。「あげた」「もらった」がなかったり、もらった人が自由に使えなかったりするのなら、財産をもらったとはいえません。申告書や税金は、誤って提出された申告書であり、誤って納めた税金です。

お給料をもらった事実もないのに、所得税だけを払えと言われたら、払うでしょうか。それでは順序が逆ですね。贈与の事実がないのに、贈与税を納めるのは、それとまったく同じこと。贈与税の申告や納税だけは、贈与の証拠にはなりません。贈与税の申告納税をしていても、贈与があったと認めてもらえないケースもあるのです。

5)お金を移した後、税務署が何も言ってこなければ、贈与税は時効になる

贈与税の時効は、通常の場合が6年で、特に悪質な場合は7年です。でも、「預金の名義を変えたけれど、税務署が何も言ってこない」=「バレなかった。よかったよかった」ではありません。

通常、贈与税の税務調査は、めったに行われません。なぜなら、仮に税務署が預金の動きをチェックしたとしても、「名義」だけでは本当の持ち主はわかりませんし、その原因が贈与かどうかもわからないからです。

贈与税は、生前のうちに贈与をして、相続税の課税を逃れることを補完するための税なので、税務署は、相続税と贈与税をセットで考えています。贈与税の税務調査をしなくても、相続税の税務調査で一緒に詳しく調べれば済むことです。

6)夫が稼いだお金は夫婦二人のものなので、夫婦の間で贈与なんてありえない

結婚後に取得した財産は夫婦の共有財産だとしている国もありますが、日本は違い、夫が稼いだものは、あくまで夫「だけ」のもの。日本では、夫婦は「別」財産制です。

民法の762条では、結婚後に、夫や妻のそれぞれが稼いだ財産を「特有財産」、はっきりしない財産を「共有財産」と呼び、明確に区別しています。

たとえ妻名義になっている預金でも、その預金のもとになるお金を「稼いだ」のが夫なら、それは夫だけの財産です。そのお金を妻にあげたなら、当然、贈与税がかかります。

どうでしょう。ひとつくらいは「え?そうなの?」と思ったのではないでしょうか。

  では、税務署に「贈与の事実が本当にあった」と認めてもらうためには、どんな証拠が必要なのでしょうか。

贈与の事実を立証するための3要件

1) 贈与契約書

民法上あげた・もらったという両方の意思があったことを証明するため、もらったと口で言うだけでは証拠にならず。すべて書面で残しておくこと

2) 印鑑・通帳の管理や支配、自由な使用収益

税務上もらった人がもらった財産を持ち、自由に使えていること。本当にもらったのなら当たり前

3) 贈与税の申告納税

さらに年間110万円を超える額の財産をもらったら、当然、その義務あり

  この3要件を満たさない「したつもり贈与」では、相続税対策にならないどころか、むしろ余計な相続トラブルを増やすだけかもしれません。

あげたつもりだったお金が、法律上は亡くなった人の財産だとすると、その財産は遺産分割の対象にもなるからです。ただでさえもめごとの多い相続争いが、勘違いの相続税対策により、もっとややこしくなってしまいます。

普通の人の「贈与」や「預金の名義」に関する常識は、法律や税金の世界では、非常識であることがほとんどなので、十分な注意が必要です。

詳しくは、『必ずもめる相続税の話』をぜひお読み下さい。

参照ニュースURL

http://toyokeizai.net/articles/-/12454

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